株式会社植物ゲノムセンター

研究開発の背景・研究目的及び目標

背景

作物の交雑育種では、望ましい形質を持つ品種・系統を交配し、その雑種後代からより優れた性質を持つ個体を選んで新品種を育成する。従来の方法では、各形質を評価して遺伝子型でなく表現型に基づいて有望個体の選抜を行ってきた。特性評価や個体選抜に手間と時間が多くかかるため、1つの新品種を育成するには10数年の年月が必要である。このため、いかにこの手間と時間を少なくするかが、作物育種を効率化する上で最も重要な課題である。

イネゲノムの全塩基配列の完全解読により、育種技術に革命的な変動が始まっている。塩基配列の情報を基にして自由にDNAマーカーを設定でき、育種母集団の各個体のゲノム全域を解析し、遺伝子型によって個体選抜を行うことが可能となった。植物ゲノムセンターでは、いち早くイネゲノム全塩基配列の情報を活用して、ゲノム全域を網羅するDNAマーカーを用いて選抜を行う「ゲノム育種法」を開発し実用化している。更に温室で世代促進を行うシステムも立ち上げている。これらを組合せることによって、従来10数年を要する育種期間を3年程度に短縮することが出来る体制を整えている。また、イネ有用形質の遺伝解析および育種を行う上で必要な遺伝資源1,000種類を保有している。

一方、沖縄県石垣市は亜熱帯地域に属し、ほぼ1年を通じてイネを栽培できる。当社の豊富な遺伝資源や独自の育種技術と同市の特有な気象条件とを組合せれば、新品種の育種効率を更に高め、画期的な植物育種システムの確立が可能となる。

研究目的

沖縄県石垣市に研究拠点を設立し、沖縄の自然条件と当社の豊富な遺伝資源と独自の育種技術を活用した、Ⅰ)コシヒカリに農業上重要形質を付加する育種、Ⅱ)野生イネ遺伝資源を利用した育種母本の作出、Ⅲ)沖縄における世代促進、試験栽培および特性調査体系の構築、Ⅳ)沖縄における高品質種籾生産・精選・管理体系の確立を研究目的に据え、それらの成果を統合した結果可能となる「沖縄県の自然条件を利用した画期的な植物育種システムの開発」を最終目的とした。これらの成果を事業化することにより、沖縄県の産業振興を目指す。

目標

茨城県つくば市にある本社と沖縄県石垣市に立ち上げる研究拠点との間で育種材料を往復させること(シャトル育種)によって研究開発を行い、平成17年度から平成19年度の3年間の補助期間に以下の目標を達成する。

①沖縄県石垣市に研究拠点を立ち上げて、新品種の育成、世代促進、および高品質種籾生産・精選・管理等に必要な一連の研究が遂行できるように整備する。
②出穂期を変えたコシヒカリ6系統を育成する。
③いもち病に強い短稈コシヒカリを6系統育成する。
④野生イネ由来の耐冷性遺伝子を取り入れたコシヒカリを1系統育成する。
⑤インド型品種広陸矮4号(GuangLuAi4号、以下、G4と略する)の遺伝的背景に、野生イネの染色体が導入された染色体断片置換系統(CSSL:chromosome segment substitution line)を約100系統作出する。
⑥沖縄研究拠点においてイネ試験栽培の体系を確立し、世代促進センターとして整備する。
⑦沖縄における種籾生産の条件検討を行い、本土並みの高品質種籾生産・精選・管理体系を確立する。

研究体制

(1)研究組織

当社は本補助事業の実施にあたって、社内組織として沖縄研究所を設置し、本社研究グループと協力して研究開発を推進した。研究組織は下記の通りである。

(2)管理体制

本補助事業の統括者は、当社代表取締役社長である。
本補助事業係わる主任研究員は、当社研究部長である。
本補助事業経理の主担当者は、当社取締役総務部長である。
本補助事業の連絡窓口は、当社研究企画部長である。
管理体制は下記の通りである。


(3)研究者氏名及び人員

本研究開発に関わる研究員及び人員は下に示す通りである。

研究員
平成17年度(6名)
王 子軒、北澤 則之、山口 勲夫、岡 洋一、安部 匡、森 浩一

平成18年度(5名)
王 子軒、山口 勲夫、岡 洋一、安部 匡、森 浩一

平成19年度(6名)
王 子軒、山口 勲夫、岡 洋一、安部 匡、森 浩一、新田 直人

研究補助員
平成18年度(2名)
松田 由美、大田 陽子

平成19年度(2名)
松田 由美、大田 陽子

(4)外部からの指導・協力者名及び指導・協力事項

所  属: 沖縄県農業研究センター石垣支所
氏  名: 大工 政信
職  名: 班長
指導又は協力を受ける事項: 沖縄における種籾生産のための標準作業マニュアルの確立

所  属: 沖縄県農業協同組合八重山地区事業本部
氏  名: 大島 正嗣(平成19年5月まで)
職  名: 本部長
指導又は協力を受ける事項: 石垣市研究拠点用地の選定
沖縄における種籾生産のための標準作業マニュアルの確立

所  属: 沖縄県農業協同組合八重山地区事業本部
氏  名: 山田 恵昌(平成19年6月~)
職  名: 本部長
指導又は協力を受ける事項: 沖縄における種籾生産のための標準作業マニュアルの確立

氏  名: 大濱 博彦
指導又は協力を受ける事項: 石垣市におけるイネ栽培指導とその管理
 
氏  名: 山城 幸久
指導又は協力を受ける事項: 沖縄研究所用地の提供

氏  名: 新城 正雄
指導又は協力を受ける事項: 研究圃場の提供

成果概要

 本研究は画期的なイネ育種システムを確立するため、平成17年度から19年度まで3年間にわたり研究支援を受けてきた。当社は、このイネ育種システムの確立のために沖縄県石垣市に研究拠点(沖縄研究所)を立ち上げ、以下の研究課題に取り組んできた。すなわち、Ⅰ)コシヒカリに農業上重要形質を付加する育種、Ⅱ)野生イネ遺伝資源を利用した育種母本の作出、Ⅲ)沖縄における世代促進、試験栽培および特性調査体系の構築、並びに、Ⅳ)沖縄における高品質種籾生産・精選・管理体系の構築、である。また、これらの研究開発は、本社(茨城県つくば市)と沖縄研究所(沖縄県石垣市)との間で育種材料を往復させる(シャトル育種)ことによって実施した。以下の研究成果を得た。

沖縄研究拠点の立ち上げ及び充実

 沖縄県の自然条件を十分に活用するため、沖縄県石垣市に研究拠点を設立し、立ち上げと整備を図ってきた。その結果、研究拠点として、研究圃場を確保し、また、温室、実験室、実験用種子整理・保存施設並びに種籾精選・貯蔵施設を備えた沖縄研究所を設置した。

育種・米ビジネス事業ネットワークの形成

 沖縄県、特に石垣市にある独立行政法人・公的農業研究機関や、JA関係者、米加工業者などには、沖縄研究拠点の立ち上げに当たり、多大な協力を承った。これを機に、沖縄県内での育種・米ビジネス事業ネットワークを形成できた。
また、当社が開発した短稈コシヒカリの各地における適性検定試験や米の販売を通じて、全国27道県に渡って、数多くの独立行政法人・公的農業研究機関や、JA関係者、米生産者、農業法人、米流通業者および米小売店と交流・提携できる関係を構築してきた。

Ⅰ)コシヒカリに農業上重要形質を付加する育種

 ゲノム育種法によりインド型品種広陸矮4号の出穂期関連遺伝子を含む染色体領域をコシヒカリに取り入れ、出穂期準同質遺伝子系統が6系統得られた。これらの系統は、コシヒカリと比較して、出穂が3週間ほど早い早生系統から10日ほど遅い晩生系統まで存在し、多様な出穂期を持つことが明らかになった。
富山県が育成した、いもち病に強いコシヒカリ同質遺伝子系統(BL)と当社が育成した短稈コシヒカリ(sd)との交配を行い、交配後代からいもち病に強い短稈コシヒカリ系統(sdBL)6系統を選抜した。そして、これらの系統が実用品種になりうることを明らかにした。
野生イネの幼苗期耐冷性が強い形質をコシヒカリに取り入れて耐冷性極強コシヒカリの育成を開始し、育種初期世代を得た。

Ⅱ)野生イネ遺伝資源を利用した育種母本の作出

 野生イネの農業上有用な遺伝子を広く利用できるようにするため、野生イネW1943 の染色体断片を一部分ずつ栽培イネインド型品種G4に取り入れた染色体断片置換系統60系統を作出した。

Ⅲ)沖縄における世代促進、試験栽培および特性調査体系の構築

 各種イネ品種(系統)を、月1回の頻度で定期的に試験栽培し、沖縄における栽培基本情報の蓄積を図った。
また、国内外の有力な品種の特性を調査する目的で試験栽培を行った。
これら、異なる季節や多様な品種を用いて行った試験栽培から得られた知見により、沖縄での世代促進、試験栽培および特性調査体系を構築し、「沖縄研究拠点におけるイネの栽培・管理マニュアル」を作成した(添付資料1:A4 22枚)。

Ⅳ)沖縄における高品質種籾生産・精選・管理体系の構築

沖縄県における種子産業を創出するため、種籾生産・精選の条件を3年間検討した結果、第1期作では安定して高品質種籾を生産することが可能であることが明らかになった。一方、第2期作では台風に逢うリスクが高く、安定して高品質種籾を大量に生産することは困難であるが、少量の研究用種籾であれば生産可能であることが明らかとなった。これらの種籾生産で得られた知見を基に、「沖縄研究拠点における種籾生産のための標準作業マニュアル」を作成した(添付資料2:A4 17枚)。

事業化に向けての課題及び今後の取り組み

当社は、本研究開発で得られた上記の成果を利用して、平成22年4月より沖縄県内又は県外において事業化を行う。即ち、当社が保有する豊富な遺伝資源及び独自の育種技術と、沖縄県石垣市の特有な気象条件とを組合せて開発した画期的な育種システム、当システムを開発する際生み出したイネ新品種・新素材、それにより付加価値を付けた種籾、および生産した米の4製品をビジネスの柱とし、育種システム事業(①品種の受託育成、②世代促進、③実験用種籾の生産、④育種素材の提供)及び、米穀事業(①種籾販売、②米の販売)を実施する。

育種システム事業

育種システム事業では、国・都道府県、民間企業などの育種研究機関を対象に、「品種の受託育成」、「世代促進」、「実験用種籾生産」及び、「育種素材の提供」などのサービスを提供する。「世代促進」および「実験用種籾生産」は沖縄研究所で、「品種の受託育成」、「育種素材の提供」はつくば本社と共同で対応したい。

①当社が確立した画期的な育種システムでは、新品種の育成期間を従来の方法に比べて大幅に短縮できるため、生産者・消費者の要望に応じて速やかに新品種の育成を完了することができる。これを武器に、イネ新品種の開発・イネ遺伝育種学研究を幅広く受託していきたい。また、地元沖縄の研究機関・民間企業と更に緊密な提携を図って沖縄に適した各種用途のイネ品種の開発を受託したい。

②沖縄県石垣市の特有な気象条件を生かして、日本国内外の育種機関がイネ新品種開発に必要とする世代促進のサービスを提供したい。

③支援事業により確立する種籾生産・精選体系は、日本国内外の育種機関がイネ新品種の試験栽培及び普及に必要とする実験用種籾増殖のサービスを提供する。沖縄に高度に整備した種籾センターを利用して日本国内外各地の育種機関の要望に応えたい。

④育種素材(中間母本、育成系統)を日本国内外の育種研究機関に提供する。現在までに日本型品種及びインド型品種を背景にして様々な中間母本、又は育成系統を作成したため、各種の育種目標にマッチする系統を育種素材として提供することが可能である。これを持って関連機関と共同研究開発を行いたい。

米穀事業

米穀事業では、米の生産者(JA、農業法人、各生産者)を対象に高品質種籾を販売する。または、当社育成品種の栽培権・販売権をライセンスする。さらに、食品会社、外食産業、加工米飯産業及び、一般消費者に極良食味の米を販売する。これらの事業は本社を中心として行う。

①当社は、主に極良食味として消費者に支持されているコシヒカリをベースに実用品種を開発中である。そのうち、本事業で育成した6種類のいもち病に強い短稈コシヒカリ(sdBL)は、倒れにくくいもち病に強いため、栽培しやすく、減農薬が推進でき、米生産のコスト減に繋がる。また、「出穂期を多様に変えたコシヒカリ品種シリーズ」は、栽培適応地域の拡大が期待できる。これらの品種は全てコシヒカリの同質系統であり、産地銘柄として位置付けられると期待できる。売れる米を作ることが生産者に求められている現在、これらの品種の種籾は生産者のニーズにマッチしたものである。この種籾販売の他、当社育成品種の栽培権・販売権のライセンスも併せて行う。ライセンスは種籾の品質や在庫を管理する必要がないので、今後主要な種籾販売方法として位置付けていく予定である。

②開発する上記の品種を各適地の銘柄として委託栽培を行い、生産された米を外食業者或いは店頭で販売し、米市場のシェアを拡大していく。
 
 上記の事業化を行う上で、次に示すような課題がある。
沖縄研究所は、育種システム事業(①品種の受託育成、②世代促進、③実験用種籾の生産、④育種素材の提供)を行う上で不可欠である。本補助事業終了後も沖縄研究所を維持していく必要がある。
米穀事業の柱となる本研究で作成した新品種または品種候補を普及にもっていくまでに2-3年の年月を要する。
いもち病抵抗性短稈コシヒカリ系統(sdBL)については、これから品種登録、試験栽培、栽培適地の選定、種籾生産などの過程を経る必要がある。
出穂期改変コシヒカリ6系統については、更なる改良を加え、その後に、品種登録、試験栽培、栽培適地の選定、種籾生産などの過程を経る必要がある。
沖縄に適した品種については、探索を継続しデータを蓄積しているところであり、結論に至っていない。今後、重点的に取り組みたい。
また、事業化を行う上で次に述べるリスクがあり、克服していかなければならない。
育種システム事業を進めていく際の課題は、石垣市において品種育成を阻む台風、冬期の低温そして病虫害である。
米穀事業における課題は、沖縄県で栽培する場合に、台風あるいは病虫害によって、収量や品質が低下することである。

当該プロジェクト連絡窓口

所  属: 株式会社植物ゲノムセンター
氏  名: 矢野 敏子
職  名: 研究企画部長
住  所: 〒305-0856 茨城県つくば市観音台1-25-2
電  話: 029-839-4826
     F A X: 029-839-4828
E-mail: tyano@pgcdna.co.jp