本事業期間において、下記の項目を中心に研究開発を行った。その結果は項目ごとに記載する。
(1)最適な感染防御抗原の選択およびそれらの中の有効なドメインの選択と発現様相の解析
西ナイル熱ウイルスおよび日本脳炎ウイルス(以下JEV)の構成タンパク質についての情報をもとに、両ウイルスの抗原候補の交叉性を見いだした。その結果をもとにそれ以降の試験においてはJEVの遺伝子情報を鋳型として、各種スクリーニングを実施した(図2)。スクリーニング方法としては、DNAワクチンおよび精製抗原タンパク質を使用した免疫原性の確認ならびにウイルス中和能を指標とした(図3)。
その結果、ワクチン候補抗原としては、免疫原性が高く、中和活性を示した外殻タンパク質(Eタンパク質)のドメインⅠ-Ⅲ領域(全長)、ドメインⅠ-Ⅱ領域、ドメインⅢ領域および免疫誘導の観点から細胞性免疫の誘導が期待される非構造タンパク質(NS-1)の4種類を選定した。これら4種類については(2)の乳酸菌発現系へと研究段階を進めた。

図2:JEV抗原タンパク質の選定


図3:JEVドメインⅢの免疫原性およびウイルス中和活性
(2)目的抗原を発現する乳酸菌表層発現システムの構築および改良
スクリーニング結果から得られたワクチン抗原候補の遺伝子情報をもとに、乳酸菌発現用の各種形質転換ベクターを構築した。選定したEタンパク質の3種類は何れも中和活性が確認されている。そのうちドメインⅢは10 kDa程度と比較的分子量も小さく乳酸菌表層発現様式の最適化により発現量を向上させることに成功した。さらに、ドメインⅢについては表層発現系以外にも分泌発現系および細胞内発現系を構築し、それぞれ形質転換体を取得することに成功した(図4)。

図4:各種日本脳炎ウイルス抗原を表層発現した乳酸菌菌体の取得状況
(3)表層発現乳酸菌の大量培養方法の確立
試験管・フラスコスケールの培養では、発現量に大きなばらつきが生じたため、pH調整が可能な10Lスケールファーメンターを導入し、培養特性の解析と培養方法を確立した。その結果、培養条件については最適条件を確定することができた。一方、遺伝子組換え体の環境への放出を避けるため、組換え体の完全死菌化を検討した。そのプロセスについては、非組換え体を用いた予備検討で死菌化条件を設定後、実際に組換え体へと変更して検討を重ねた。ラボレベルでは、組換え体が完全に死菌化でき、表層発現した抗原の量には影響を及ぼさない死菌化プロトコルを確立した。また、大量培養の試験としては70Lまでのスケールアップを実施した。
(4)免疫賦活化剤の開発(有効性評価)
天然の高分子量アミノ酸ポリマーであるポリガンマグルタミン酸(以下PGA)を選択し、免疫賦活効果を評価した。第一段階としてモデル抗原に卵白アルブミン(以下OVA)を使用し、抗体産生能を血清IgGを指標として注射による免疫賦活効果を評価した。その結果、既存のアルミミウム塩に比べると効果は低いものの、PGAにおいても抗OVA抗体産生能増強効果が確認でき、免疫賦活効果が確認された。次に、中和活性を示すことがわかっているJEVドメインⅢに抗原タンパク質を切り替えて評価試験を実施した。その結果、PGAを使用することで抗JEVドメインⅢ抗体産生増強効果を確認した。


図5:PGAの免疫賦活化効果
(5)ワクチン効果確認のための動物実験(抗体価、ワクチン防御効果、安全性試験等)
Eタンパク質のドメインⅢおよび全長領域を発現する組換え乳酸菌を製造し、ワクチン効果確認のため動物実験を実施した。薬効判定の上で重要な判断基準となるチャレンジ試験(感染防御効果)については、予備実験の結果、ウイルスの投与経路と投与量(LD50)を確定した。今後、この評価系の確立により、迅速に検体の有効性を評価可能である。これらの評価系を用い、組換え乳酸菌(死菌化済み)のマウスへの経口投与によりワクチン効果を検証したが、血清中に有意な抗JEV Eタンパク質抗体価の上昇を示すデータは得られなかった。一方、乳酸菌発現菌体の可溶化物の経鼻投与では、実験的に使用される免疫賦活化剤(コレラトキシン:CT)との共投与で、ウイルス中和活性をもつ特異抗体の誘導が確認された。(図6)

図6:可溶化乳酸菌の免疫原性評価
この結果は、乳酸菌で表層発現させた抗原が感染防御能を有することを示している。そこで、抗体誘導能の増強を目指し、乳酸菌に発現させるウイルス抗原量の増加を図り、経口ルートからの投薬を継続したが、現有の表層発現系では、感染防御免疫を賦与するために必要な抗原量に達しない可能性があり、発現様式改善の必要性が示された。
さらに、乳酸菌発現系の基礎に立ち返り、その他の抗原タンパク質との組合せによりワクチン効果の確認実験を行った。その際、モデル抗原としてはJEVドメインⅢと分子量的にも同等であり、ヒトの子宮頚がんの原因ウイルスであることが判明しているヒトパピローマウイルス(以下HPV)のE7タンパク質を選定した。JEVドメインⅢと同様の製造方法で作製したHPV E7タンパク質を発現した組換え体を用いて評価した結果、HPV E7に対する特異的免疫応答が確認された。これらの結果から、乳酸菌発現系とJEV Eタンパク質との組合せに課題があることが示唆された。
(6)その他
ワクチン抗原候補のスクリーニング時に作製した精製抗原タンパク質を用いて、JEVに対するタンパク質性のサブユニットワクチンの可能性を検証した。その結果、JEV NS-1の経鼻投与の実験から学術的にも興味深い新知見が得られた。