株式会社ジェノラックBL

研究開発の背景・研究目的及び目標

近年、SARSや高病原性鳥インフルエンザなどの出現をみてもわかるように、平均して毎年ひとつの新興・再興感染症が世界の各地で出現しており、それらの中には世界規模での感染爆発が懸念されているものもある。我が国をはじめ、世界におけるワクチン需要は年々増加傾向を示し、2006年の世界市場は約6,600億円にも達している。

このような状況の中で、西ナイル熱及び日本脳炎について見てみると、これら2種類のウイルスとも蚊によって媒介され、ブタ、ウマもしくは鳥を介して感染範囲を広めている。西ナイル熱感染は1999年にニューヨークで勃発し、2003年までに全米に広がった。2004年末には患者数は12,000人以上、死者は300人を超えている。また、14,000頭のウマに発病が確認され、3,000頭以上が死亡している。

本邦には西ナイル熱ウイルスの侵入は確認されていないが、本感染症に対するヒト用ワクチンは開発されていない。また、日本脳炎ワクチンに関する本邦の現状を見ると2005年に厚生労働省から日本脳炎ワクチン接種の積極的な勧奨を差し控える勧告が発令され、ヒト用の日本脳炎ワクチンは従来のマウス脳乳剤としての製品からVero細胞等を用いた細胞培養系による新しい製造法への切り替えのため、臨床試験が進められている。

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図1:西ナイルウイルス(赤部分)及び日本脳炎ウイルス分布図(緑部分)

このような社会的背景のなか、本邦においても2007年にワクチン産業ビジョンが公布され、新たなワクチンプラットフォームや免疫賦活化剤の研究開発が行われている。また、少子高齢化の現代では、ワクチンの社会的需要は感染症予防という側面だけでなく、治療の側面からもそのニーズが増大することが予想される。

そこで、本研究開発事業では、フラビウイルス属に分類され、人獣共通感染症でもある西ナイル熱ウイルスおよび日本脳炎ウイルスを対象とし、その中間宿主となる動物(ブタ・トリ・ウマなど)に利用可能な新規経口投与型乳酸菌ワクチンの開発を目指す。また、併せて免疫賦活化剤についても検証試験を行い、事業化への展開を検討する。

研究体制

(1)研究組織

㈱ジェノラックBL本社研究所ならびに沖縄研究室

本社研究所(大阪)の研究拠点以外に沖縄県内での研究拠点として、採択時より琉球大学分子生命科学研究センター内に沖縄研究室(レンタルラボ)を設置することができ、沖縄県内での研究開発基盤を構築した。研究スタッフには沖縄県在住者を起用し、研究室の運営および研究体制を整備した。さらに、琉球大学との共同研究を中心に各種社外との委託研究も実施し、研究者間の交流を行うことで、産学連携体制の強化と有機的な研究開発ネットワークの構築も図っている。

琉球大学分子生命科学研究センター

遺伝子組換え体の培養実験、マウスを用いた非(前)臨床試験での免疫応答確認実験時の施設利用等
琉球大学大学院医学研究科
ウイルス感染実験時の施設利用等
  
(2)管理体制

㈱ジェノラックBL本社(大阪)にて一括管理した。沖縄研究室と琉球大学内の研究機関との連携については、沖縄研究室に責任者を置き、毎月研究進捗報告会を開催することで、各機関の進捗状況を確認できる体制を取った。また、沖縄研究室で取り纏めた各機関の研究進捗情報は、毎月本社で開催する月例報告会にて詳細の確認を行い、沖縄研究室ならびに共同研究機関の進捗状況を本社で一括管理する体制を構築した。さらに、定期的に本社から研究統括者が共同研究先および外部委託試験実施先に訪問し、詳細な試験の進捗管理も行った。
 
(3)研究者氏名及び人員
   
㈱ジェノラックBL本社研究所(氏名・担当)
瀬脇智満 研究統括
遊橋健一 遺伝子組換えの作製および評価
野村栄司 遺伝子組換え体の作製および評価
三股亮大朗 小動物(マウス)を用いたワクチン評価

㈱ジェノラックBL沖縄研究室
田福宣治 小動物(マウス)を用いたワクチン評価
川上博哉 抗原タンパク質の精製および性状評価
竹村康保 遺伝子組換え体の培養および性状評価
傳田淳子 遺伝子組換え実験(研究補助)
小林海央 遺伝子組換え実験(研究補助)

(4)外部からの指導・協力者名及び指導・協力事項

①大学(氏名・所属・役職)
新川武 琉球大学分子生命科学研究センター 分子感染防御分野 准教授
指導・協力事項:動物による評価、粘膜ワクチン技術の研究開発に関する協力
只野昌之 琉球大学大学院医学研究科 准教授
指導・協力事項:ワクチン候補抗原の最適化・ウイルス感染実験に関する協力
佐藤朝光 福岡大学薬学部 助教
指導・協力事項:乳酸菌の染色体への遺伝子組込み実験に関する協力

②その他(氏名・所属・役職)
喜久川政直 ㈱AMBiS 代表取締役社長 
指導・協力事項:組換え微生物大量培養条件の最適化に関する研究支援及び指導

成果概要

本事業期間において、下記の項目を中心に研究開発を行った。その結果は項目ごとに記載する。

(1)最適な感染防御抗原の選択およびそれらの中の有効なドメインの選択と発現様相の解析
西ナイル熱ウイルスおよび日本脳炎ウイルス(以下JEV)の構成タンパク質についての情報をもとに、両ウイルスの抗原候補の交叉性を見いだした。その結果をもとにそれ以降の試験においてはJEVの遺伝子情報を鋳型として、各種スクリーニングを実施した(図2)。スクリーニング方法としては、DNAワクチンおよび精製抗原タンパク質を使用した免疫原性の確認ならびにウイルス中和能を指標とした(図3)。

その結果、ワクチン候補抗原としては、免疫原性が高く、中和活性を示した外殻タンパク質(Eタンパク質)のドメインⅠ-Ⅲ領域(全長)、ドメインⅠ-Ⅱ領域、ドメインⅢ領域および免疫誘導の観点から細胞性免疫の誘導が期待される非構造タンパク質(NS-1)の4種類を選定した。これら4種類については(2)の乳酸菌発現系へと研究段階を進めた。

図2:JEV抗原タンパク質の選定


図3:JEVドメインⅢの免疫原性およびウイルス中和活性

(2)目的抗原を発現する乳酸菌表層発現システムの構築および改良

スクリーニング結果から得られたワクチン抗原候補の遺伝子情報をもとに、乳酸菌発現用の各種形質転換ベクターを構築した。選定したEタンパク質の3種類は何れも中和活性が確認されている。そのうちドメインⅢは10 kDa程度と比較的分子量も小さく乳酸菌表層発現様式の最適化により発現量を向上させることに成功した。さらに、ドメインⅢについては表層発現系以外にも分泌発現系および細胞内発現系を構築し、それぞれ形質転換体を取得することに成功した(図4)。

図4:各種日本脳炎ウイルス抗原を表層発現した乳酸菌菌体の取得状況

(3)表層発現乳酸菌の大量培養方法の確立

試験管・フラスコスケールの培養では、発現量に大きなばらつきが生じたため、pH調整が可能な10Lスケールファーメンターを導入し、培養特性の解析と培養方法を確立した。その結果、培養条件については最適条件を確定することができた。一方、遺伝子組換え体の環境への放出を避けるため、組換え体の完全死菌化を検討した。そのプロセスについては、非組換え体を用いた予備検討で死菌化条件を設定後、実際に組換え体へと変更して検討を重ねた。ラボレベルでは、組換え体が完全に死菌化でき、表層発現した抗原の量には影響を及ぼさない死菌化プロトコルを確立した。また、大量培養の試験としては70Lまでのスケールアップを実施した。

(4)免疫賦活化剤の開発(有効性評価)

天然の高分子量アミノ酸ポリマーであるポリガンマグルタミン酸(以下PGA)を選択し、免疫賦活効果を評価した。第一段階としてモデル抗原に卵白アルブミン(以下OVA)を使用し、抗体産生能を血清IgGを指標として注射による免疫賦活効果を評価した。その結果、既存のアルミミウム塩に比べると効果は低いものの、PGAにおいても抗OVA抗体産生能増強効果が確認でき、免疫賦活効果が確認された。次に、中和活性を示すことがわかっているJEVドメインⅢに抗原タンパク質を切り替えて評価試験を実施した。その結果、PGAを使用することで抗JEVドメインⅢ抗体産生増強効果を確認した。

図5:PGAの免疫賦活化効果

(5)ワクチン効果確認のための動物実験(抗体価、ワクチン防御効果、安全性試験等)

Eタンパク質のドメインⅢおよび全長領域を発現する組換え乳酸菌を製造し、ワクチン効果確認のため動物実験を実施した。薬効判定の上で重要な判断基準となるチャレンジ試験(感染防御効果)については、予備実験の結果、ウイルスの投与経路と投与量(LD50)を確定した。今後、この評価系の確立により、迅速に検体の有効性を評価可能である。これらの評価系を用い、組換え乳酸菌(死菌化済み)のマウスへの経口投与によりワクチン効果を検証したが、血清中に有意な抗JEV Eタンパク質抗体価の上昇を示すデータは得られなかった。一方、乳酸菌発現菌体の可溶化物の経鼻投与では、実験的に使用される免疫賦活化剤(コレラトキシン:CT)との共投与で、ウイルス中和活性をもつ特異抗体の誘導が確認された。(図6)


         図6:可溶化乳酸菌の免疫原性評価

この結果は、乳酸菌で表層発現させた抗原が感染防御能を有することを示している。そこで、抗体誘導能の増強を目指し、乳酸菌に発現させるウイルス抗原量の増加を図り、経口ルートからの投薬を継続したが、現有の表層発現系では、感染防御免疫を賦与するために必要な抗原量に達しない可能性があり、発現様式改善の必要性が示された。

さらに、乳酸菌発現系の基礎に立ち返り、その他の抗原タンパク質との組合せによりワクチン効果の確認実験を行った。その際、モデル抗原としてはJEVドメインⅢと分子量的にも同等であり、ヒトの子宮頚がんの原因ウイルスであることが判明しているヒトパピローマウイルス(以下HPV)のE7タンパク質を選定した。JEVドメインⅢと同様の製造方法で作製したHPV E7タンパク質を発現した組換え体を用いて評価した結果、HPV E7に対する特異的免疫応答が確認された。これらの結果から、乳酸菌発現系とJEV Eタンパク質との組合せに課題があることが示唆された。

(6)その他

ワクチン抗原候補のスクリーニング時に作製した精製抗原タンパク質を用いて、JEVに対するタンパク質性のサブユニットワクチンの可能性を検証した。その結果、JEV NS-1の経鼻投与の実験から学術的にも興味深い新知見が得られた。

事業化に向けての課題及び今後の取り組み

動物用ワクチンの課題は、1)本事業期間で得られなかった薬効をより明確に示すための継続的な研究実施、2)本事業中で得られた新知見を事業化へ展開するための方向性の確立、ならびに3)ワクチンプラットフォーム技術としての適用拡大である。一方、免疫賦活化剤は、1)飼料添加剤への展開に向けた規格化、2)注射剤として利用可能な疾患の絞り込み、および3)対象動物での評価試験の実施である。具体的な検討内容としては、新たな発現様式として乳酸菌分泌発現系を利用した抗原送達方法や、共投与に使用する免疫賦活化剤の選択および新たな乳酸菌株を追加することを視野に入れた検討である。

(1)発現様式の改善

発現様式としては既に分泌発現系および細胞内発現系の構築を完了しているため、今後これらを原薬として薬効評価を試みることで、さらなる検証を進める。

(2)投与経路・投与量・投薬スケジュールの確立

経口投与での血中での免疫応答のみならず、経鼻ルートでの投与量や投薬スケジュール、細胞性免疫の解析等に向けた検討が必要であると考えている。

(3)免疫賦活化剤との併用などによる免疫原性の増強
  
今後の事業化に向け、本事業終了後も継続して沖縄研究室を維持することが不可欠である。さらに、琉球大学を中心とした感染症研究の拠点機関との連携を深め、共同研究から得られる成果も有効に活用し、ワクチン研究については製薬企業へのアライアンス活動に重点的に取り組むことで2~3年後に臨床ステージへと開発を進展さ、5年後の事業化を目指す。一方、免疫賦活化剤については、更なる実証研究を重ね、3年後の販売開始を目指したい。

当該プロジェクト連絡窓口

㈱ジェノラックBL沖縄研究室
研究員 田福宣治
tafuku@genolac-bl.jp